『日本一のブナ』を求めて山を登って行きます。かすかな踏跡を頼りに歩くのですがそれさえも途絶えることがあります。その時はおおよそ見当をつけて進んでいると、また踏跡が現れるといった調子でゆっくりと登ってゆきます。あたりは、ブナやトチの巨木が林立し、うっそうとした森を形成し、ツタやカズラが巻きついた大枝、深い苔に被われた倒木などが行手を遮り、登山者を苦しめます。こうして1時間以上進みましたがまだ『ブナ』は現れません。“まだ奥なのかなあ”と思いつつ“あと1時間歩いて会えなかったら引き返そう”と思い定めて、なおも進んでゆきます。森は一層、深くなり炎天下にもかかわらず、ひんやりとした空気があたりを包みます。ここは今までに見たこともない凄い原生林です。こうして登り始めて2時間半が経過した時点で『もう引き返そう、限界だ』と思いリュックを降ろし休憩。あたりをゆっくりと見回してゆくと、ふと信じられない光景が目に飛びこんできました。なんと『ブナ』が目の前に在るではありませんか。紹介記事で見た写真の通り、隆々とした巨体に大枝を“ぬっく”と伸ばし、じつと私を見おろしていました。はからずも『日本一のブナ』に会えたのです。ゆっくりスケッチをし、心ゆくまで眺め幸運を喜びながら下山開始、14時20分。ところが10分も下ると道が分からなくなったのです。ヒバの稚木が斜面を被いつくし、全ての踏跡が隠れてしまったのです。“来た道はどこだ?”私は必死になって付近を捜しますが、分かりません。そしていつの間にか自分が急峻な崖の上に来ていることに気付きました。もう自力でルートを捜すのは無理と判断した私は通じることを祈りながら営林署に携帯電話でSOS。驚いたことにこんな深山でも通じ“直ちに救出に向かう”と応答があったのです。
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岩手県和賀郡西和賀町沢内若畑9地割
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(前)和賀山塊
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